患者様に安心できる製品を
お届けするための最後の砦
				
				
					私は、薬事品質保証部の責任者として日本市場における品質管理を担当しています。私たちの会社は製品そのものを国内で製造しているわけではなく、海外の製造所で生産された医療機器を日本に輸入し、薬機法に基づく製造販売業者として、国内で最終的な品質確認や出荷判定などを行っています。
つまり、私たちの仕事は「輸入業務」ではなく、製品の品質と安全性を最終的に担保する、いわば「品質の最後の砦」としての役割を担っているのです。どんなに優れた製品であっても最終的な確認を怠れば、患者さんのもとに届けることはできません。その責任を背負うのが、私たち薬事品質保証部です。
品質管理の仕事の中心にあるのは「QMS省令」に基づいた品質マネジメントシステム(QMS)の運用です。製品が常に安全で有効であることを担保するために、法令に則ってSOP(標準作業手順書)を整備し、すべての工程を法令と社内の品質基準に則って適切に管理しています。				
			
							
				
					
製品の有効期限延長に向けた
SOPの再設計プロジェクト
				
				
					品質保証の根幹を支えるのがSOPですが、私は単に法令に沿って一方的に手順を定め、「この通りにやってください」と指示するような作り方はしません。実際の現場をよく知る人たちの声を聞き、彼らと一緒に考えながら、QMS省令に準拠したSOPへ落とし込むことを大切にしています。その姿勢が最も形になったのが、製品の有効期限延長に関するプロジェクトです。
品質に求められる追加の安定性試験をクリアしたことで、これまで24ヶ月だった製品の有効期限を36ヶ月に延長できるようになったのです。製品寿命が延びることは、医療現場にとっても供給安定性の面で大きなメリットと考えています。ただ、そのためには国内製造所倉庫での管理方法や基幹システムの機能変更も含め、関係するSOPの再設計が必要でした。私は国内製造所メンバーやIT担当者と何度も打ち合わせを重ね、製造所の現場の流れを一つひとつ確認。それぞれの担当者が「これなら確実に運用できる」と納得できるような形に整え、プロジェクトを完遂させました。
私はルールとは「従うべきもの」であり「品質を高めるために活かすもの」でもあると考えています。現場の声に耳を傾けながら、規制の趣旨を正しく理解し、それを組織のプロジェクトの中でどう活かすかを一緒に考える――それが薬事品質保証部の大切な役割だと思っています。				
			
							
				
					
品質保証とは、正確に伝え、
理解し合うための対話の積み重ね
				
				
					今でも鮮明に覚えているのは、中国とオランダの製造所に赴き、監査担当官A(医薬品医療機器総合機構)に初めて立ち会った時のことです。中国とオランダの製造所に赴き、監査担当官と共に製造所を巡回しながら、QMSが適切に運用されているか、日々の記録や製造工程を細かく確認しました。現地のスタッフは真摯で優秀ですが、文化や価値観、業務の進め方にはやはり違いがあります。日本の品質基準や文書管理の厳密さをどのように理解してもらうかが大きな壁でした。
監査に同行していた上司は、常に冷静に状況を見極めながら、相手の理解度に合わせて丁寧に説明していました。その姿勢から、「品質保証とは、正確に伝え、理解し合うための対話の積み重ねなのだ」と強く感じました。早い段階で国際的な監査対応を経験できたことは非常に大きい意味があったのです。それ以降、自身が監査人となる内部監査やサプライヤー監査においても、単に指摘する側ではなく、相手が納得し、改善に前向きになれるような伝え方を意識するようになりました。
品質保証の仕事の使命は、医療という、人の命に直結する領域でルールや手順の背景を読み解き、変化や課題を前向きな力に変えること。そしてそれによって製品の品質と安全性を社会に届けることです。決して派手な仕事ではありませんが、柔軟に考え、ルールを最大限に活かすことで、確かな成果を生み出すことができます。今日もSOPを一つひとつ磨き上げ、仲間とともに、医療の信頼を築き続けています。